COLUMN Vol.01
いわゆるロシアピアニズム(ロシア奏法)、つまりロシア楽派(russian school)の演奏技法とは何か。
この問いは多様性のある「ロシア的な奏法」という対象に投げかける質問としてはある意味無謀ではあるが、確かに「ロシア的」な一定の様式は存在する。本連載ではこのことを明らかにしたい。
さて、「ロシアピアニズム」や「ロシア楽派(ロシア奏法)」という複合語を問題とするのだから、まずは構成要素となる語に分解して考えてみよう。
便宜上後ろから考えてみると、「楽派」や「奏法」は日常語的な感覚で捉えられるそのままの意味合いだ。楽派は音楽を学ぶ人の派閥のことを指すし、奏法は楽器の弾き方のことを示す。「ピアニズム」は「ピアノ」に「イズム」がついたものだからピアノの思想体系を意味する。
難しいのはここからだ。
では「ロシア」とは何か。日本語の文脈で出てくる「ロシア」には「旧ソビエト」や「スラブ文化圏」を意味してしまうケースが多い傾向にある。
例えば「ロシアピアニズム(ロシア奏法)」の中でも一つの黄金流派を形成する、ドミトリー・バシキーロフの流派(藤田真央の師匠であるキリル・ゲルシュタインやアルカーディ・ヴォロドス、ドミトリー・アレクセーエフ等がいる)は実際のところ「ジョージア」の流派だとされる。なぜならバシキーロフがジョージアを故郷とするからだ。
とは言え「ロシア(ソビエト)」のアレクサンドル・ゴリデンヴェイゼルの弟子でもある。
一方で同じジョージア出身のエリソ・ヴィルサラーゼの門下は「ロシア」か、あるいは「ジョージア」「ソビエト」か。
この場合はとても複雑で、ヴィルサラーゼ自体がゲンリヒ・ネイガウスというロシアを代表する(とは言っても出身はウクライナでドイツ系で、指を伸ばす奏法の一つの起源と考えられるフェリックス・ブルーメンフェルトは彼の伯父)巨匠教授の弟子であるために、日本では普通狭義の「ロシア」の奏法だとされることが多い。
あるいはモスクワでのライブ録音が有名なウラディミール・ホロヴィッツは「ロシア」か? 彼の出身は今で言うところのウクライナだ。そして彼もブルーメンフェルトに師事している。
このように、旧ソビエトやそれ以前の帝政ロシアとの混同が要因で、「ロシア」が広く捉えられたり、スラブ語文化圏と「ロシア」が同一視されたり、今で言うロシア国外出身の音楽家が、ロシアで活動したりロシアで音楽教育を受けたことによって、「ロシア」と紐づけられたりすることなどが挙げられる。
本連載では「ロシア」を広い意味でとり「旧ソビエト」や「スラブ」くらいまでを射程に捉えようと思う。その方が「ロシアピアニズム(ロシア奏法)」が内在している多様性を上手く捉えられると考えるからだ。